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忘れない為に・・・・・・
(「ALICE and 千影同盟」様 同人誌「Goth−Sis」投稿作品)




「ありり、千影ちゃんそっくり!」

・・・・・・隣に座っている雛子ちゃんの声に・・・・・・、思わず視線を向けた。
・・・・・・本当だ。
私と同じような・・・・・・黒い服を着た女性が・・・・・・、通りの向こうを歩いている。
・・・・・・背格好も私と同じぐらい・・・・・・だったし、髪の色も似ていた。

「あ・・・・・・でも、お顔は全然ちがうね」
「・・・・・・そう・・・・・・だね」
「ねえ千影ちゃん、黒いお洋服の人って、いっぱいいるねー」

確かに・・・・・・、こうしてベンチに腰掛けて、人の群れを・・・・・・眺めていると、黒い服の若い女性が・・・・・・、いくらでも見つかる。
・・・・・・何でも最近は・・・・・・ゴスロリ・ファッションが流やるらしい・・・・・・。
そう言えば・・・・・・町を歩いていても・・・・・・以前のように奇異な目で見られることが少なくなった・・・・・・な・・・・・・。
・・・・・・世俗の流行に関心は無い私だが・・・・・・そういう意味での・・・・・・恩恵を被っているとは・・・・・・言えそうだ。
なにしろ子供の頃は・・・・・・服装一つとっても・・・・・・ずいぶん変わり者扱いされたもの・・・・・・だったから。

「ね、千影ちゃん。千影ちゃんは、どうしていつも、黒いお洋服を着ているの?」
「それは・・・・・・雛子ちゃんが・・・・・・いつも、黄色のお洋服を着ているのと・・・・・・同じだよ。・・・・・・黄色が・・・・・・好きなんだろう」
「うん、ヒナ、黄色のお洋服、ダイ好きだよー」
「・・・・・・ああ。私も、黒のお洋服が・・・・・・大好きなんだ。それだけ、だよ・・・・・・」
「ふーん」

・・・・・・まさか、雛子ちゃんに本当の事を・・・・・・打ち明けるわけには・・・・・・いかないだろうね・・・・・・。
喪服だ・・・・・・なんて・・・・・・。

・・・・・・前世で・・・・・・私は兄くんの遺体を見た。
私を残し・・・・・・辺境の地へと出征していった兄くんは・・・・・・棺に入って戻ってきたのだ・・・・・・。
せっかく・・・・・・やっとのことで結ばれたと思ったのに・・・・・・、
その幸せは・・・・・・ほんの束の間のことでしかなかった・・・・・・。
・・・・・・泣いて悔いても・・・・・・兄くんは・・・・・・もう還ってこない。
前世の私は・・・・・・その後・・・・・・死の扉を開くまでの間ずっと・・・・・・悲しみの淵に・・・・・・絶望の底に・・・・・・一人、沈み続けていた。
・・・・・・だから、決心したのだ・・・・・・。
今生では・・・・・・、前世の失敗を決して繰り返すまい・・・・・・、と。
・・・・・・兄くんをしっかり掴んで・・・・・・永遠に離さない。
その為には、当たり前の方法では・・・・・・駄目だ。
・・・・・・愛し合い、結婚し・・・・・・それだけでは足りないのだ。
肉体と肉体が結ばれようと・・・・・・世間的な形式を整えようと・・・・・・それだけではいずれ・・・・・・死が二人を分かつ時が・・・・・・来てしまう。
・・・・・・二人の・・・・・・魂そのものが、完全に一体とならなければ・・・・・・。
その為には、現世での幸せの全てを・・・諦める必要がある。
・・・・・・今はまだいい。
まだ、準備が整って・・・・・・いない。
焦って失敗するわけには・・・・・・いかないのだから・・・・・・、慎重に・・・・・・時を待たなければ・・・・・・。
だが・・・・・・、問題がある。
・・・・・・今の私が、けっこう幸せだと・・・・・・いうことだ。
兄くんが側に・・・・・・いてくれる・・・・・・。
兄妹として生まれ落ちているのだから・・・・・・当然と言えば、当然・・・・・・なのだが・・・・・・。
・・・・・・それは僥倖であると共に・・・・・・、甘い罠とも言える・・・・・・かも知れない。
・・・・・・現世での幸せを棄てる・・・・・・ともすれば・・・・・・、その決心が鈍りがちになるのを、私は感じずにはいられない・・・・・・。
だが、・・・・・・その現世の幸せを選んでしまったら・・・・・・
・・・・・・遅くとも何十年かの後には・・・・・・死神が再び、二人を分かちに・・・・・・やってくる。
あの悲しみと絶望が・・・・・・やってくる・・・・・・。
・・・・・・忘れてはならない。
現世の兄くんの為に・・・・・・、私は喪服を着たくはない。
だから・・・・・・、前世の兄くんを弔う喪服を・・・・・・身にまとい続けるのだ・・・・・・。
・・・・・・忘れない為に・・・・・・。




「お・待・た・せー!」
「うわーい、おいしそう! くしししし」

・・・・・・クレープを三つ抱えて・・・・・・、兄くんが戻ってきた。

「はい、雛子ちゃん」
「ありがとう、おにいたまv」

ああ、兄くん・・・・・・なんだって・・・・・・、そんな眩しい笑顔を・・・・・・見せてくれるんだい・・・・・・?
おかげで、ほら、私の決意が・・・・・・、またグラついて・・・・・・しまうじゃないか・・・・・・。

「・・・・・・」
「ん? どうしたの、千影ちゃん」
「あ・・・・・・いや・・・・・・別に・・・・・・」
「ほら、千影ちゃんもどうぞ。このお店のクレープ、けっこう、おいしいらしいよ。花穂ちゃんに教えてもらったんだ」
「フフッ、それは・・・・・・信頼できる情報・・・・・・だね。・・・・・・ありがとう、兄くん」
「いただきまーす。はむっ! うっわあ、おにいたま、おいしいよぉ!」

・・・・・・雛子ちゃんの声に釣られた訳でもないが、私も一口・・・・・・。
あ、甘い・・・・・・v

「どう? 千影ちゃん」
「・・・・・・ああ、これは・・・・・・いいね」
「そう、良かった」

嬉しそうな兄くんの顔・・・・・・兄くんの瞳・・・・・・。
ああ・・・・・・甘い・・・・・・甘い罠・・・・・・。
・・・・・・いっそ、このまま・・・・・・とろけてしまいたい・・・・・・でも・・・・・・でも・・・・・・。

「・・・・・・兄くん、もし良かったら・・・・・・、この後、買い物に付き合って・・・・・・欲しいんだが」
「え、それは構わないけど」
「千影ちゃん、ヒナもついて行っていーい? 何のお買い物するの?」
「ああ、黒いお洋服を買いに・・・・・・ね・・・・・・」

(おわり)









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